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「世界選手権疾走記録 8」


3月22日(木) 迷走(公開練習、オリジナルダンス)
今日はいつもの通りとは西に一つずれた通りを歩いて駅へ向かう。この通りは大きくはなく、小さい店や公園まである。途中に中でも食べられるパン屋さんを発見、「明日の朝ごはんはここでのんびり食べよう」とだけ決めてスカイトレインへ。


会場に着いたのは第3グループの練習が始まる少し前。エルビスが出てくるやいなや「Happy Birthday, Elvis!」の声があちこちから飛び、合唱も。いやーすごいわ(←傍観者)。ひとしきりのハッピーバースディが終わった後、ジャッジ側で「Happy Birthday TAKESHI JAPAN TIME!」のボードを掲げているおじさんがいるのに気がついた。
おおっ、
技あり!は行き過ぎか。効果に抑えておこう。
全く気づかなかった。バンクーバーの22日は日本の23日、日本では本田君の誕生日を祝っている頃なのだ。日本との時差を考えている外国人の本田君ファンがいることが新鮮であり、嬉しい。

ところでアンソニー・リウがまだ来ていないのだが、どうしたのだろう?そう思い始めた頃にやってきた。動きのテンションの低さが浮いているエルビス以上にテンションが低そうである。そんな二人がニアミスした。
お互いよけて立ち止まり、二言三言言葉を交わした様子。ウォームアップに戻る時にこちら向きになったアンソニー・リウの表情が少し和らいでいた。そんな状態なので曲には合わせていない。

次のエルビスも全く合わせていない。聴いてはいるのかプログラムのコースをたどって滑るというよりぶらついているといった方が近い表現。始めからがんがん飛ばし、ジャンプの助走に入る成江がエルビスのぎりぎり前を猛スピードで横切り、エルビスがよけるシーンも。どっちの曲かけなんだか(^^;)。
この時初めて気がついたのだが、曲が流れた後に所用時間がアナウンスされていた。「Music time, four minutes and fifty-three seconds.」

ふぉーみにっつあんどふぃふてぃーすりーせかんず!?

規程違反じゃんか、それ!
(男子フリーは4分30秒プラスマイナス10秒)

まあそんな基本的なミスをするはずがないから、動いている時間が4分30秒プラスマイナス10秒で曲の時間ではないということなのだろう。ということはあのオープニング、最低13秒は止まっているのね(^^;)

曲かけが終わってからジャンプを跳び始めたエルビス。あっさりクワド+2トウ。クワドは跳べているのだが…と思っていた時にアクセル+3トウ。よかった、トリプルアクセルを降りた所を初めて見た。昨日の公開練習でもがんがん飛ばして調子がよさそうだったらしいし、上向きになったと見ていいのかな。少し他の人を見ることにする。
誰を見ていたのか覚えていないのだが、視界の隅で本田君がさりげなくさりげなくクワドサルコウ+3トウをきめていたような気がする。今日の成江はクワドトウ。


やはり思い過ごしではなさそうだ。
エルビスを見ていてここまでテンションの低さ…というか、暗くて重いものを今まで感じたことがない。ヘルシンキはもちろん、あの大阪四大陸の木曜日よりも。

とはいってもジャンプがきまらなくていらついているなどということではなく、ずっとぶらぶら滑っているだけなのだ。私がエルビスの姿から感じているだけで、他の人が見たらそうとは思わないかもしれない。
「クワド+2トウをきめて初めてトリプルアクセルのコンビネーションを降りて、後は流していた」と書けば客観的な内容であり、かつ読んでいる人に明るい印象をもたらす。それがファンの誠意というものだし、Heart Of A Championならそうするのだろう。だがあいにく私は自分の中にあるうすら寒さを無視してレポートを書ける人間ではない。
つくづく練習のレポートは試合より書くのが難しい。

これは早めに帰るかUschiさんと話し込むかかな?しかし今日のUschiさんは観客席からかなり近い位置にいる。この位置で止まろうものならリンクサイドのファンが騒いでとても話し込める状態ではないだろう。リンクから上がってもこの群集を無視して帰れそうにない。かといって練習時間の最中にリンクに立ってサインをしたら他の滑っている選手の邪魔になる。
そういえば日曜日も早々に上着を着てUschiさんと話し込み、結果的に最後までリンクにいたエルビス。まさか普段だったら帰っている所をゆっくりファンの相手ができるように他の選手が帰ってしまうまで上がるのを待っているんじゃないでしょうね?


幸いというかアンソニー・リウは早々に練習を切り上げ、成江も中盤ぐらいで帰っている。スタニック・ジャネットは曲かけの前に、最終滑走のディネフは曲かけの後にすぐ練習を終わり、唯一残っていた本田君もUschiさんと(珍しい組み合わせだ)おしゃべりしている終了ムード。リンクから上がるエルビスと握手をして帰っていく。
そしてやはりというかリンクサイドでサインを始めたエルビス。「Happy Birthday!」の声があちこちから飛び、エルビスも笑顔でファンに接しているほのぼのとした光景なのだが、ずっと嫌なものを感じていた上にさっきの勘繰りがツボにはまった私はここで一気にブチ切れた。
「あたしは練習見に来たのであってサインをねだりに来たんじゃない。練習終わったからごはん食べる!」とそっぽを向いてヤケ食い状態の朝ごはん。スーパーで買ったナンなので当然味はない。

そしてしばらくするとエルビスは律儀に反対側のリンクサイドへいってサインをしてあげている。リンクから上がっているので問題はないのだが、次のグループのウォームアップ始まるってば。まったくもう〜〜。
やさぐれつつもサインをしている所の写真は撮る私。このシーンをネタとしてキープしておこうと思う性分が悲しい。






さて最終グループはロシア3人が本番の衣装を着ている。前のグループでも本田君とアンソニー・リウが着ていたし、練習で本番の衣装を着る人は結構いるのね。
プルシェンコは今シーズンのフリーの衣装。そりゃそうだ、こっちのプログラムで勝負してくれないと。しかし予選とフリーを違うプログラムで滑ってもルール上問題はなかったのか。今までにそういうことをした人はいるのだろうか?

今回の世界選手権、練習、予選、ショートと見てきてしみじみ思うがエルドリッジの調子のよさはもはや驚異的。これが一ヶ月前に足首を切開して膿を出した人の動きなのだろうか!?こんなにきっちり調整してくると知っていたら棄権のニュースを聞いた時に四大陸が吹っ飛ぶほどショックを受けずに、もっとエルビスだけにアンテナを向けておくんだった。私の四大陸返してよ(笑)!

最終滑走のゲイブルが曲かけの前に帰ったのを見届けて花束の買い出しへ。


花束を買うのはいつも時間との勝負だが、今回はオリジナルダンスに間に合いたいので一分一秒も無駄にできない。昨日花屋さんを見つけた時には「少しぐらいオリジナルダンスにずれ込んでもいいか」と思っていたのだが、よりにもよってWeinaさん達が四番滑走を引いてしまったのだ。アイスダンスという競技の性質上彼女達の演技を見られるのは今回がラストチャンス。コンパルソリーを見なかったのがつくづく痛い。
昨日見つけた花屋さんは会場からスカイトレインで一駅戻った所にある。スカイトレインを降りて駅の区画を出て、ダッシュをかけようとした矢先に別の花屋さんがあった。駅のそばにある小さい花屋の割にはなかなか品ぞろえがいい。青いバラと赤いバラがあるのをチェックしたところで考えが変わる。

今回のフリー、エルビスにあそこまで正統派で来られると赤いバラ以外のベースの花が考えられない。そしてあんな武骨なまでのグラディエーターに凝った花束は合わないような気がしてきた。
つまり赤いバラさえあればどの花屋さんで買おうが同じなのだ。プラス私は万が一のためにラッピンググッズを一通り持って来ている。ということは、ここで花だけ買ってさっさと帰ってオリジナルダンスと男子フリーの間にどこかでラッピングすればいいのだ。なーんだ、簡単じゃん。
という事でバラだけを買い、花束を組んでもらうKをおいて先に会場に戻る。よかったこれでオリジナルダンスにピリつかずにすむ。
しかし毎回同じような系統の花束を用意するあたり我ながら芸が荒い。あまり人の事は言えないな…いや、これはエルビスに合わせているからこうなるのであって、氷上でのイメージを変えないエルビスが悪いのさっ☆


そんなわけで会場に戻るとまだ観客が入り切っていない状態だった。私の席は通路に近い所にあるのであまり早いうちからいると他の人が通りにくくなる。荷物も多いし、しばらくどこかで時間をつぶそうか…と思いながら7、8列上の階段でボーッと立っていると席に座っている人から声をかけられた。
「今日は赤いバラなのね。黄色いのはどうしたの?」
(なんで知ってるんだろう^^;)ユースに置いてきたの。今日は男子フリーだから」
「そう。ねえ昨日のペア、チャイニーズすごかったわね。私はカナディアンだからジェイミーとデヴィッドが勝ってうれしかったけど、I think Chinese deserved to win.」
ありがとう。

オリジナルダンスが始まる直前にKが戻ってきた。おお、間に合った…のはいいのだが、花束がでかい!青色好きの彼女は予想通りに青いバラを選び、かすみ草と椿みたいな光沢のある葉が飾りに入っている。
……組んでもらったらよかったかな(^^;)。


去年からどう変わったか楽しみにしていたのだが、結果的に一回しか見られなかったWeinaさん達。
Weinaさんがパーマをかけるわほんのり茶色のメッシュを入れるわと気合が入っているが、メークは逆にナチュラルになった様子。白塗り仮面になっていないのがグッドで素が混じっていそうないい笑顔。Xianmingさんも中国男子には珍しく演技をしていて、「New York, New York」に合わせて楽しげな世界を作っている。
ただこの二人はほとんど身長差がないので(4cm)、片手で女性を抱えて斜め向きにみつめ合うダンスおなじみのポーズは見映えがしないのでやめた方がいいと思う。Xianmingさんの方が細く見えるし(^^;)。
キス&クライではコーチを真ん中に挟んでカメラに向かって手を振る三人。いやあ、この二人いいわ(笑)。



代々木でのファイナルで来日したデュブレイユ&ラウゾン組は他の組に比べてリフトの印象が強い演技だった。フリーといい今年はこの路線で統一しているのか。というよりしっとりした外見とは裏腹に実はかなりアクロバティックなカップルだったのね。
しかしカナダの選手で胸元がハート型に空いた衣装を見るとは思わなかったな(^^;)










髪をおろした都築さんは演技の可愛いらしさがNHK杯よりアップ。いまいち硬いリナートさんを引っ張っている。
今年の課題の一つであるクイックステップは昔NHKで競技ダンスの世界選手権の放映を見て「とてっとてっとてっ」というステップに「あらわたくしったらはしたないことを。でも楽しい〜♪」と、節度をわきまえつつ弾けるお姫様のダンスという印象を持っていた。都築さんはまさにそれ。しかし二人ともこういう衣装は似合うのだが、どう考えても曲には合ってない。タラソワさん〜〜(泣)
後半になってリナートさんの動きと表情がよくなってきた。なんだリナートさんこの路線行ける人だったのね。ただ疲れの見えてきた都築さんをフォローするまでにはいかない。リナートさんがんばって!都築さんに遠慮してないで自分のペースに引きずりこむくらいに弾けてくれたらもっといい演技になるのに〜〜(←鬼)


都築さん達を見てからだんだんテンションが下がってきた。
今年のオリジナルダンスはおもしろくない。

課題の一つにチャールストンがあると聞いて真っ先にイメージしたのがウィンクラー&ローゼ組のような衣装と粋な世界、カフェで語らうモボとモガ。今までにないダンスが見られると楽しみにしていただけに、旭川でふんわりスカートやスパンコールがついた衣装を見た時には完全に肩すかしを食らった。
まあ一つの課題だけでオリジナルダンスをイメージしてはいけないということなのだろう。ほとんどの組がクイックステップとフォックストロットの組み合わせで作っているようなのだが、中途半端に感じられてどうも私とは相性が悪いようだ。
今までオリジナルダンスは男子フリー前の絶好のウォームアップになっていたのだが…。


テンションが低いままシェリーン達の番になった。スケートアメリカの写真で見たひらひらの衣装からシンプルな黒に変わっている。こっちの方が彼女達らしくて好き。

そして期待通りの陽気なサウンド。ズンズンズンズンという低音に合わせてステップステップ、何なのよ、このステップ!冷めていた私でさえ一気に引き込まれたのだ。ただでさえ興奮状態の観客、ボルテージが一気に最高潮。
他の組とは全く違うタイプのステップ、いやステップというよりリンク中を走り回っているような感じがする。走る走る、とにかく走る!中盤のスローパートも走りを少し緩めたという程度にしか感じられない。
そして終盤はまた始めと同じアップテンポ、細かいステップは一歩間違えたら転びそう。彼女達も会場も止まらない、本当に止まらない!クラーツ兄ちゃんの表情が弾ける久しぶりに底抜けに陽気なこの二人らしいダンス、やっとおもしろいオリジナルダンスが見られた!


今やシェリーン達の演技が基準になってしまった私は最終グループの選手の演技を見てもおもしろくない。今回のオリジナルダンスは相当相性が悪いらしい。
その中で楽しめたのがロバチェワ組の演技。目をむいているアベルブッフの表情が恐いのだがおもしろい!引きつりと笑いが同居している状態で、見ているこっちまで顔の筋肉が疲れる。アベルブッフの表情だけではなくダンスも陽気でおもしろかった。
この時初めて気がついたのだが、この二人は今までどのオリジナルダンスでも平均点以上のものをずっと出している。実は器用だったのね。

そして順位が出る。3位!


……うわー………。

始めは普通のブーイングだったのが、時間がたてばたつほど大きくなって、今日のどの演技の時の歓声よりも大きい。最終滑走だというのに競技終了のアナウンスが入れにくい雰囲気、いや入れてもやまないような気がする。



気分が悪い。


ジャッジが出した点数に納得できなくてブーイングをすることは悪いことではない。
自分の国の選手を応援することも悪いことではない。
カナダでのフィギュアスケートの人気はフィンランドやフランスとは桁が違う。会場のほとんどがカナダ人で埋まるのはチケット争奪戦の結果そうなっただけのこと。大体カナダで開催されている試合なのだ、観客のほとんどがカナダ人で当たり前の事である。

重ねて書こう。ブーイングはジャッジに対するものである。
しかし。


あまりにもブーイングが大きすぎる。演技の時の盛り上がりより大きいなんて、熱心なファンの域を越えている。私の周りにブーイングをしている人はいなかったし、一人一人の度合いはそれほど大きくないが、ここまでくると数に物をいわせた立派な袋叩き行為である。ロバチェワ組がキス&クライで喜んでいるのが救いだ、大いにはしゃいでいただきたい。オリジナルダンスが終わって3位というのは初めての順位だろうし(後日確認したらニースもそうだった)、この場なら見せつけるぐらいの根性があってちょうどいい。

愛情が暴走して抑制がきかない、あるいはしない狂信的なファンの集団。傍観を決め込んで軽蔑しながらネタにできたらどんなに楽だろう。しかし同じ国の選手のファンである私にそれをする資格はない。
悪いが私もシェリーン達の方がよかったと思っていて納得していないのだ。



二重にも三重にも気分が悪い。
 

(続く)

追記:
・エルビスの練習が終わった後そっぽを向いていた私はこの時繰り広げられていたエルビスとエルビスのお母さん、ファンとのおいしいシーンを見逃すことになりました。まあ自業自得ですね。

・Kが買った青いバラですが、バラには青い色素を作る遺伝子がないので青いバラの品種改良に成功したらノーベル賞ものなのだそうです(7年前に聞いた話です)。なのでこれは染めたものなのでしょう。初めて見ました。

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