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「世界選手権騒動記録14」


記録 14(4月2日()) エキシビション

シャワーを浴び、髪の毛をヘアアイロンでくるくる巻きにし、フルメイクをバッチリするシェリルの朝は長い。これにイライラさせられたこともあったが、今日はそんな場合ではない。花束作るんだから。
なにせエルビスと雪ちゃん達に加えて成江君の分と3つも作らないといけない。頭を抱えないでもないが、これも嬉しい悲鳴、贅沢な悩みというもの。


8時過ぎに市場に行くとさすがにこれは早すぎた。時間つぶしに少し市場を離れてうろつくと、何やら物物しい建物がある。これが地図に載っていた裁判所か。書いてあるのは多分「自由、平等、博愛」だろう。うーんベルばらの世界(何か違う)
花市場は切り花や花束だけではなくて鉢植えや苗木も売っている。アジサイの鉢植えもある。アジサイには和の花という印象があったので見るとは思わなかった。アンティーク通りの中国の屏風といい会場へ行く途中にある店のドアに貼ってあった空手教室のビラといい、こういう所で東洋ゆかりのものを見ると不思議な気分になる。

「来年は赤い花贈りたくなる勢いを取り戻してね…」と思いつつあえて白い花を贈った去年から一転、The Mummyには赤い花を通り越すような凄みが感じられた今年のエルビス。赤では何か足りないと思っていたところに昨日この花市場で一つだけ紫のバラを売っている店を見つけ、これで一気に花束モードがオンになったわけである。
 しかし今日はエキシビション。陽気な「What I like about you」に紫のバラは渋すぎる。しかし赤いバラの花束ばかりでは作っている方も飽きるのだ。何か打開策はないかと思いつつ、既に死語になる四文字の気分で目をつけておいた花屋さんへ直行する。
しかしここで思わぬバトルが待っていた。

赤いバラを5本頼むとあっさり「Non」と言われる。10本一まとめで売っているらしい。んじゃ別のバラを頼むとこれも10本一まとめらしく「Non」。「赤と紫5本ずつトータルで10本」「Non」。フランス語しか話さない上に無愛想なので取り付くしまもない。
おっちゃん、ケチ!

いーわよフランスでフランス語が話せない私の負けよ。泣く泣く赤いバラを10本買い、ネタにするつもりで写真を頼む。それはあっさりオーケーしてくれるので機嫌が悪いわけでもねじくれた人でもない。仕方がない、ここは市場。小分けにして売る場ではないのだ。
そしてここは市場である。花束なんぞ組んでくれない。つまり一から花束を組んでラッピングもしなければいけないということで……私不器用なのに。いーわよ花束フェチを名乗る以上それくらい挑戦してやるわよおぉ(泣)!


エルビスでこれだけ手間がかかりそうなのに中国勢にまで花を一から選んでいられない。ミモザ祭りがあるニース+陽気なナンバーに合わせてということで別の店でミモザを追加、雪ちゃん達には巨大なサーモンピンクのガーベラ(園芸用のひまわりくらいある)が入った巨大な花束、成江君にはアネモネっぽい小さい花束を一つ買って市場を後にする。

と買ったはいいが、これを全部持つと結構な体積になるのだ。今日は初日に泊まったオフィシャルホテルへ再び移動しなければならない。前回ホテルを移動する時は私の3倍荷物があるシェリルを手伝う余裕もあったが、今回はそうもいかない。自分の荷物は自分で管理するように。


ホテルに荷物を預けてリンクに行くと、エキシビの練習は公開されていないという。スケジュール表には公開されるようなことを書いてあったと思うのだけど。まあエキシビの練習は見たいが花束をどこで作ろうか悩んでいたので逆に助かったというところか。ホテルにはまだチェックインできないので適当な場所で作業に取りかかる。
昨日に続き今日も天気がよくて、暖かいを通り越して暑い。しかも風が強い。そんな時に慣れない作業をしようものなら…わー成江君の花がしおれてる!風でゴミが散らばる!またこのバラ、市場から仕入れてきた物だから刺がしっかりついているのだ。フラワーチルドレンが持っても大丈夫なように切っておかなきゃ。そして渋いタイプのバラだから茎が太くて朝市で買ったから生きがよくて刺が痛い〜〜〜!
こんなに花束にハマるのなら学生の時に花屋さんでバイトしておけばよかった……




………つくったわよ。ふっ。


もはやここまでくると動機はファンの愛情ではない。花束フェチの執…もとい、闘争心である。まあ花なんてその場限りのものだから少々念がこもってもどうってことないでしょう(笑)
(この写真を撮った後でちゃんとセロハンで覆った)



やっとホテルにチェックインでき、花束作りでできたごみ+αをごみ箱に入れて一息…と思ったら部屋のドアが開けっ放しになっている。いやだドア閉めてなかったの?不用心な…とドアを閉めに行ったところで向かい側の部屋のドアが開いてジャージを着た人が出てきた。

Siyinちゃんっっ!?

人懐っこい性質なのかコーチにしつけられているのか「にこっ(^^)」と笑顔で手を振ってくる彼女。(まさか顔を覚えられていたなんてことないよなあ…)条件反射で手を振り返すが頭の中は真っ白。一応笑顔を作ったつもりだが表情はどうなっていたか責任が持てない。彼女はコーチと一緒に部屋を出ていった。何はともあれ音をさせないようにドアを閉める。

ちょっと。
ホテルのセキュリティー――――!!!

まずいよこのシチュエーションぜーったいまずい!Siyinちゃんが向かいの部屋ということはこの辺に中国勢がいるということでしょ?よりにもよってニースにいるスケートファンの中で中国勢を見たら1番(いや別に本命がいる身でそれは図々しすぎるから10番ぐらいにしておこう)「きゃー(*^^*)」という状態になる私を中国勢の部屋のすぐ側に配置するなんてホテルのマネージャーは何を考えてるんだ!いや予約を取ったのはシェリルだった。彼女にとって中国勢はただの選手集団だからホテル側の対応はある意味正しい…ってそういう問題じゃない!あたしが理性失ったらどーすんのよ!!(←そういう問題でもない)
オフィシャルホテルに泊まるということがどういう事なのかこの時初めて認識した。顔面蒼白冷や汗だらだら、こういうことだったのね〜〜!!

いやいや落ち着け、まだSiyinちゃんでよかったじゃないか。これがエルビスだったら恐ろしすぎる。マジでカナダ勢と違うホテルでよかった……。


シェリル曰く「こういうことがあるからいつもドアを開けてるの」とのこと。
冗談じゃない、やめてくれ!


そんなこんなでエキシビの開始時間が近づく。会場に乗り込むが………荷物が重い。花束ってこんなに重かった?入り口への緩やかな上り坂が今日はえらくしんどい。花束も量が増えるとこんなに重いものだったのね。
会場で花束は売っているが周りの観客で花束を持ってきている人はほとんどいない。エルビスと雪ちゃん達の花束を右の肩に担ぎ、左手にカメラと成江君の花束を持っている状態だった私、三色旗のシルクハットもどきをかぶってポンポンを振る人と「変な観客」の度合いはいい勝負だったかもしれない。

今日の席はジャッジの真後ろでかなり上の方。席につくなり隣のおばさんが「あらー、また会ったわね」という様子。始めはわからなかったのだが(毎回すみませんね^^;)なんと去年の世界選手権で顔なじみになった人だった。ヘルシンキが終わった時に「ここで会った人ともう一回会えたらいいな」と思ったが、まさか本当に会えるとは思わなかった。またすぐにわかった相手もすごい。「兄がここから一時間の所に住んでいるから車で送ってもらっているの。夫と娘は別行動でね…」とエキシビが始まるまで彼女の話を聞くことになる。
去年もえらく親日家だと思っていたがどうも料理研究家らしく、海藻をよく使う健康的な料理であることから日本料理は注目していて家でもよく作るそう。「その国で実際にやっている方法で食べるようにしているの。日本料理なら箸、インド料理なら手で。日本に行った時に箸で食べたら驚かれたわ(笑)」ノルウェー出身の彼女、そりゃそうだろう。



北米女子というのはエキシビナンバーをしっとりした女性ボーカルで滑るというのが必須科目なんだろうか?本人達には悪いが四大陸の女子上位3人が軒並みおもしろくなかったので、サラ・ヒューズの紹介アナウンスでセリーヌ・ディオンを滑ると聞いた直後は正直やめてくれと思った。
しかしこれがよかったのだ。ミシェル以外の北米女子がこういうナンバーを滑ってよかったと思ったのは初めて。これは本当に来年の全米も何が起こるかわからない。

ザゴルスカ組はNHK杯のエキシビで滑ったのと同じナンバーでエキシビ用に衣装を変えている。普段はさわやかな印象の二人だが、パワフルなリフトが哀愁があって情熱的なボーカルに合っていた。

リバーダンスの編集バージョンを滑った成江君。せっかくエキシビナンバー持ってるのに…まああのナンバーは客が退いてしまうリスクがあるからこっちの方が無難でよかったかもしれない。ジャンプがすべて1回転ずつ少なくなった。終わった後に拳を上に上げて気の抜けたガッツポーズ。試合でできなかった分ここでやりたかったのかな…。
不安だったが花束はリンクに入った。まあこれは投げやすいから。

チャイト組は今年のフリー。来シーズンはエキシビナンバーが見たい。

さなぎのギスメロリは怪しかったが、蝶になるとさすがにきれい。エキシビに凝ってくれる人って嬉しい♪

サーレ組は四大陸と同じナンバー。サーレがチアリーダーみたい(^^)。

プルシェンコも今年のフリー。彼も違うエキシビナンバーが見たい…(^^;)成江君といいチャイト組といい、暗いとやっぱりやりにくいのかな?

ロバチェワ組は去年のエキシビと同じ、オリンピックシーズンのODであるジャイブ。アベルブッフは弾けているしロバチェワさんは可愛いけど、他のナンバーが見たかった…(^^;)

マーシャさんのパンツスタイルはフェイントだった。かっこいいけどNHK杯で着た衣装が実は一番好きだったりする。
ハバネラはホセを惑わすカルメンの歌だったと思うのだが、いかにも華やかで女性ボーカル満載!のオペラのイメージとは違い、ボーカルが途中で切れて長い間奏が入るアレンジになっている。間奏の時の彼女がまあ、じらすじらす。じらされているうちにボーカルに戻った頃にはすっかり彼女のペースにハマっている。この人スケートで男惑わせられるだろうなあ(こらこら)

エキシビは可もなく不可もなく、淡々と過ぎていく。会場の雰囲気も今一つでアンコールが自然に起こるような盛り上がりがない。去年4位でアンコールを起こしたエルビスってやっぱりすごかったのね。

しかし観客がただでは滑らせないという感じだったのがアビトボル組。演技より観客の盛り上がりの方が印象が強くて…犬まで出てくるし。ベルナディスさんの後を追いかけていたから彼の犬と思っていたら、サラさんの犬だったのね。


製氷の後(だったと思う)のスタニック・ジャネットのエキシビナンバーがおもしろかった。酒場でぐでんぐでんに酔っ払って寝ている所から始まり、酔っ払い状態のままふらふら滑っていくというもの。さすがフランス勢、エキシビをただでは滑らない(笑)

ドロビアツコ組は去年のフリーを滑った。ドロビアツコさんかっこいい!サーレの衣装と似ているが、この辺は着る人の個性が出るなあ。去年のフリーを黒のパンツスタイルで滑っても、元からそうであったようにぴったりハマッているのが不思議。

ワイスは始めの三点倒立の印象が強すぎてその後のかっこいいブレイクダンスのはずがギャグに見えてしまう…2枚目と3枚目、どっちかに統一した方がいいと思うよ…(^^;)

2位の一番最初のスルちゃん、なんかパワフルかつすごい色っぽいんですけど(^^;)これから呼び方変えた方がいいかもしれない。
ノリノリでアンコールにも応えてくれそうだったのに、なんで止めるんだよ係員。


という事はエルビスと雪ちゃん達はどう転んでも続きになる(^^;)

しっとりしたバラードを滑った雪ちゃん達。無理が感じられないわけではないが、シングルスケーター二人がばらばらに滑っていたような第一印象を思うと、こういうナンバーに挑戦できるようになったんだなあ…としみじみ。二人とも白いシャツが似合うわ〜
なにせジャッジ席の真後ろ、あの花束が人に直撃したらただではすまないのでひやひやしながら投げたのだが、これも余裕でリンクに入った。花束はある程度重量(というより密度)があった方が届きやすいのかもしれない。

ふふふふふ、おにーさんさすがにショーは手馴れてますね。エルビスにこういうナンバーを滑らせるとやっぱり無敵♪このナンバーはショートサイド向き(特にジャッジから見て右側)で踊っている事が多い。私の席ジャッジ側でよかった、もし対面する席に座っていたら絶対去年並みに壊れてる(笑)
しかしこれ、続けて花束投げることになるなんて順番が悪すぎる…^^;まあ順位が同じだから仕方がない。せめて雪ちゃん達が先だったことをよしとするしかないか。

フサポリ組のアラビアンなナンバー、女(じょう)…もとい、二人の力関係が見えそうな気がしたのは私だけだろうか(笑)フサポリさんかっこいいなー。


エルビスの時にはあった。
フサポリ組の時にもあった。
ミシェルのアンコールになって気がついた。

貼っておいたエルビスの横断幕がない。






そーいうことかい。






男子シングル以降すっかり安心していたあたしが馬鹿だったよ。
観客は共同の洗濯物を汚すフーリガン。大会側は置いていた他人の所有物を何も言わずに勝手に盗り込んで処分する(らしい)泥棒。スケートの大会を開きながらスケートを愛しちゃいない、ここはスケートを愛する人間の心を踏みにじる犯罪者ぞろいのスケートリンクなんだよ。よーくわかったよ。
しかし今はまだエキシビ中だ。全て終わって会場が明るくなってからどなりこみに行けばいい。そんな国で開催された世界選手権でも、演技の最中に一部の客席の空気を乱すような無粋な事はしない。普通の観客がいることもわかっているのだから。


集中力が落ちたが、続くペトロワ組のナンバーで救われた。キュートでセクシーでめちゃくちゃ気の強いペトロワさんにちょっとスケベで気の弱いティホノフさんがちょっかい出してははねつけられるというコミカルなナンバー。わはは、こう来たか(笑)!このペアがこういうことをするとは完全にフェイント、そうあってこそのエキシビションというもの。ティホノフさんって芸達者だったのね。


落ち着かない気分のままやっとエンディング。
男性陣が中央で輪になる。「いっちょ踊ろうか」というように全員で指を鳴らし、続いてスピン。場末のディスコかミュージカルかという感じだが、服が合っているグループと合っていないグループにきれいに分かれている(^^;)
続いて女性陣の登場、紹介されて一通り踊った後に男性陣が「Hey, ladies!」というように合図。これはお約束で男女ペアになりますね。でも男が一人多いのだ。さああぶれるのは誰かな〜?と笑いながら見ていたらあぶれたのはなんと成江君!「俺は〜?」というような両手を広げたポーズ。ああっかわいそうに!
ちょっと演出家、エキシビ対象者になんてことさせるのよ!あんたもあんただスタニック・ジャネット、サラちゃんこっちに渡しなさい(ファンの方ごめんなさい!)!!

あんた身内かい…それと彼女にも好みというものがあるんだから(^^;)エキシビよかったスタニック・ジャネットの方がいいわよね。まあ演出家の立場見てもこのメンバーだと三枚目の役柄は成江君に振るだろう。どうひいき目に見ても一番いけてない(泣)。
成江君の次の課題がわかった、衣装と髪型だ。世界選手権のエキシビに出場した中国男子の看板選手なんだから、来年はしっかり磨いてよ中国スケート連盟!あの宏博兄さんがあれだけかっこよくなっているんだからできないはずはない!


で、肝心のエルビスはというとしっかりギスメロリと組んでいる。無理に踊らず向かい合ってポーズを決めているのが一番サマになっていてさすが♪
(ちなみにあとの組み合わせはヤグディン&ミシェル、プルシェンコ&スルツカヤ、ワイス&ブティルスカヤ)
この後続いてペアとアイスダンスの選手が順番に出てくるのだが、その間エルビスとギスメロリは二人でちょこちょこ踊っていたりする。ナイスバディでノリのいい者同士、なかなかお似合いよん♪(こらこら)



と、はしゃいではみてもひとしきりの振付が終わるとやはり落ち着かなくなる。

ある人が会場で物を落としてしまい問い合わせに行ったのはいいが、英語が通じにくいのをいいことにさんざん無視されたらしい(結局彼女は粘って探し出したのだが)。おおかた東洋人が一人で行っても馬鹿にして相手にしないのだろう。しかも今回はラリック杯で貼ってあるのを大会側が勝手にはがして処分したらしい横断幕がらみだ。カナダ応援団を煽動して暴動でも起こさせて、力で押すぐらいの事をしないと向こうは話に応じないかもしれない。幸いカナダ人はフランス語もしゃべれるし、エルビスがらみのことならきっと協力してくれる。
でももしカナダ人が「あまりにこの似顔絵が素敵だから」と盗んだのだとしたら……。


リンクではペイザラがスピーチをしている。去年はマーカス・レミネンがやっていたから毎年恒例なのか。なら来年はエルビスで再来年は本田君がこの役をするのね〜♪と一瞬考えたが、やはりそれどころではない。英語でスピーチしていてくれていたらまだ落ち着いていたのだろうが、当たり前だがフランス語で全くわからない。もうエルビスの姿さえ目に入らない、頼むから早くスピーチ終わってくれ!
でもこれが終われば世界選手権が全て終わってしまうのに、なんて形でエンディングを迎えてしまうんだろう。


照明が明るくなると同時に席を立つ。隣のおばちゃんにあいさつすればよかったが、エルビスの横断幕がなくなっているのだ、そんな余裕はない。今ごろ焼却炉であれを燃やしているんじゃないかと思うといてもたってもいられない…がこんな時に限ってなかなか進めない。そりゃ当然、横断幕はリンクの反対側に貼っているので人の流れに逆らうことになるのだ。
横断幕が全てだめならまだ話はわかるが、私が貼っておいたエルビスのだけがなくなっているのだ。落ちたのか?そんなはずはない、あれだけベタベタ貼ったのだし女子シングルの後でも今日だってフサポリ組の時までは無事だった。場所が悪かったのか?いや隣で同じように初日からあるフサポリ組の横断幕はちゃんとある。同じ銀メダリストで似顔絵つき、しかもあっちは名前入り!テレビの立場で言えばあっちの方に先にクレームをつけるはず!(本田=HONDAがまずいように名前が同じ企業名があるかもしれない)。

ならなんで?まさか本当に誰かが盗んでいったのか?


反対側の通路に入った時にはもうカナダ応援団もほとんど帰ってしまっている。私一人で係員と渡り合うしかない。いやそれも結構、そもそも無関係の人間を巻き込むのはフェアではないし、今こそ3倍、いや10倍でケンカをする時だったのだ。今までとんだエネルギーの無駄づかいをしてきたものだ。あんた達から見たら日本人は無表情に見えるかもしれんが、だからといって感情がないとは思うなよ?大和撫子なんてくそ食らえ、日本人をなめんじゃねえ!!
返せ返せ返せ、エルビスの横断幕返せ、座り込みして明日の飛行機乗り過ごしてでも絶対に獲り返す!


客がほとんど出て行き、係員のお姉さんが立ち話をしている。手すりから下を見下ろすが、その真下に落ちていたなんていう安易なオチはない。貼っておいた場所にガムテープの貼り跡さえもない。これでさらに頭に血が上った。
「ここに貼ってた横断幕どこ?あれ私のなんだよ(正確に言うと借り物)、返せ!」とのっけから喧嘩腰の私。彼女達はえ?という反応。「ここに横断幕はなかったわよ」とまで言う。しらばっくれるな、あたしは初日から貼ってたんだよ!あんたも貼った時隣にいただろうが!…って、貼った時にいたのこの人だったっけ?毎日違う場所に座っていたので係員の顔までいちいち覚えていない。もし係員がローテーションで場所を替わっているのなら確かにわからないか。
無視はしないが対応のしようがないという様子の彼女達。確かに彼女達の管轄は観客席で仕事はチケットのチェックと席までの案内。厚底靴(日本のと同じ。マジで)をはいているんだからこの階段をすばやく移動できない、トラブルが起こったって仲裁能力がないのはわかりきったことだ。あんた達は窓口でいいからさっさと他のスタッフか上役に話振れ!そのうち通りがかったお姉さん二人が「どこから来たの?」「日本の旗貼ってたの?」とかなりピントが外れた質問から始めてようやく事の次第を理解してくれた。


どうもこの二人は大会スタッフではないが関係者のよう(メディア関係?)。リンクサイドにいる人に声をかけてくれ、「彼が知っているみたいだから訊いてみて」と指差してくれるがこの兄ちゃんがべらべらしゃべるのはフランス語。いい加減にしろ、国際大会で東洋人がいたら外国人に決まっているだろうが!「英語でしゃべれ、わからないんだよ!」とどなると「I don't understand English either!」とどなり返してくる。
ああそうかい、そりゃすまんね。フランス人全員が英語しゃべれるわけじゃないもんな。しかし結構うだうだしゃべっていたわりには通訳は「ここにはないしどうなったのかわからない」との事。んじゃ始めから話すな!

リンクサイドではスタッフが入れ替わり立ち代わりやってくる。話を聞いて「下に落ちてるんじゃないのか?」と言うように布をちょっと上げてあたりを見る。だからそこにはないんだよ!一ヶ所を見るしか芸がないのか!と言いたい所だが話を初めて聞いたらまずそこを見るだろう。いっそのことリンクサイドへ降りていって自分で探したいが、話が通じていてリンクサイドのスタッフが探している以上成り行きを見るしかない。
しかしあまりにも同じ行動パターンを見せられると不信感がつのる。そもそも集団でもみ消すのは組織の常套手段、「探している」という行動をとってごまかしているに違いない。たいしたもんだ、「探している」んだからこれを振り切ってリンクサイドに降りたら私の方がフェアじゃないことになる。でもそれならもうちょっとましな演技をしたらどう!?上役は泥棒、下っ端は大根役者、窓口はこぎれいなだけで能力なしの人間の集まり、
これがキャンデを育てた国のスケート連盟の実態かよ!!!


「現場のベテラン」という感じのやや年上の男の人がやってくる。「そっちの方は?」と少し離れた階段を指差す。行動ののろいスタッフより私が見た方が早い。階段をかけ降りて裏から見てみると。

あった。



……泣いたよこの時も………


とりあえず始めにどなりこんだ係員のお姉さんに謝っておく。もともと何でも悲観的に物事を見るたちだが、さすがにこれはマイナスの方向に考えすぎた。
理性も何もぶっ飛んで横断幕抱え込んで大泣きするしかない状態の私。「だいじょうぶ?水でも飲んだほうがいいんじゃないの?」とお姉さんに背中を押されて入りかける先はなんと関係者用の通路。いくらエキシビが終わっているとはいえさすがにそれはまずいだろう。「私はただのファンだから」と断るとガムをくれた。


ホテルへ戻る途中、まだ落ち着いていない状態の私の横を雪ちゃんが通りすぎていく。タイミングがいいというか悪いというか…片手でカートを転がし、もう片方の手で花束達を抱えている彼女、その花束の体積のほとんどは私があげた巨大な花束。嬉しいと同時にごめんね、あれ片手で持つのは重いでしょう…(^^;)

このあとホテルのエレベーターで雪ちゃんと再び遭遇。最上階では3人だけでやっぱり部屋の方向も同じ。あああああ〜〜〜(パニック)ちなみにこの時の雪ちゃん、めちゃめちゃ機嫌悪そうだった。エレベーターのドアが閉まるまで待てないタイプなのね(笑)



部屋でゆっくり横断幕を見ると、ガムテープの上半分、手すりに貼りつけていた部分だけが一直線に切れてなくなっている。ガムテープは手で縦にも横にも繊維にそって裂くことができるタイプのもの、下から持って斜めに引っ張れば簡単にガムテープが裂けて横断幕を取ることができる。

「Artistry on Ice Michael Tyllesen」の横断幕のArtistryの字が初日のうちに取り外されていた。
「Art on Ice」というアイスショーかテレビ番組かがアメリカにはある。
横断幕がなくなった時に滑っていたミシェルはアメリカの選手である。
ミシェルだけがライバルの得点を待っている時の表情をモニターに映し出されている。




推測はいくらでもできるが、一番大事なことを見失ってはいけない。
エルビスの横断幕はちゃんとここにある。そして何も傷つけられてはいない。
階段の下にもちゃんとたたんで置いてあったのだから。



少しうろついてみようと外に出たのだが、エレベーターでまたもや有名スケーターA&B組+Cさんと一緒になり、冷や汗をかきまくった私。もう体力も気力も尽き果てた。まだ夕方で外は明るいが部屋へ戻ってベッドへ直行する。
バンケットが始まるまで一眠りするつもりがシェリルが帰ってきた音で起きると夜の10時。昨日まではこの夜に横断幕を貸してくださったIシスターズさんのお土産で横断幕にエルビスのサインをもらおうと思っていたが、今の私にロビーでエルビスを帰ってくるのを待つ気力はない。
追っかけにいるのは度胸や要領ではない。体力と気力だったのね。


疲れた………………。

しかしこれが世界選手権のエンディングかい。

(もう少し続く)

追記:去年のようにエキシビのエンディングでエルビスが遊んでくれるかと期待していたんですが、これだけきっちり演出されていると遊びようがないですね(笑)。

その2:成江君が置いてきぼりになった時には「何てことさせるのよ!」と思いましたが、あとでよく考えてみればあれで一人だけ目立つことができたわけです。変に女性と組んでつぶれてしまうより(だっていかにも場慣れしてなさそうですから^^;)インパクトがあって、かえってよかったかもしれませんね。

その3:横断幕のことですが、考えていたことは全て本気でした。人間極限に怒ると何考えるかわかりませんね。フィリッパーの方には申し訳ない気もしますが、このことでフランスが嫌いになったわけではありません。

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