「世界選手権騒動記録11」 |
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11(3月31日(金)) アイスダンスフリー 散歩から帰ってきて売店の小さなテーブルで買っておいた晩ごはんを食べる。明日の女子フリーは早い時間に終わるから、これが会場で食べる最後の晩ごはんか…としみじみしていたらいきなり「Hi! Are you OK, today?」の声。 「イェス、オフコース!」と反射的に答えたものの、頭の中は「誰だろうこのおばさん」という状態(私にはよくあること^^;)。彼女が去ってから思い出した、昨日二列前の席に座っていた人だ! 昨日大泣きしている私を気にしていた係員のお姉さんにフォローを入れてくれた彼女、その前にも最終結果が出た時点で「エルビス2位よ」と声をかけてくれた(もちろんわかっていたが)。ありがたいことだが、なんで彼女は私がエルビスのファンということがわかったんだろう?私声出さなかったし、おっちゃんにエルビスのファンだということは言わなかったし、そもそもいくらこの会場で東洋人が目立つとはいえ普通は二列後ろの人間を気にかけたりしないだろうに。 いくら考えてもわかりそうにもないので放っておくが、去年も似たようなシチュエーションがあったような気がする…… すみませんねえ学習能力がなくて!(大赤面) 今回の席は少し後ろになるがジャッジの真後ろ、ある意味今までで一番いい席かもしれない。階段を上っていくと「Hi!」の声。今度は誰だ?見ると昨日のおっちゃんが1.5人分席を取って座っている。その半分取られているのは私の席。すごい偶然。 それにしてもこのおっちゃん、昨日最終グループの間どこにいたんだろう? 「リンクサイドで見てたよ。」そりゃ特等席で。メディア関係なのね。 「仕事でね、ステファン・リンデマンのケアをしないといけなかったんだ。彼ミスしたから。」 は?? 「I'm a president of German federation」 なに――――――っ!?!?!?!? 世界選手権では妙に大物運がよくて、大物ファンや関係者に出くわしてきたけど、今までで一番の大物かもしれない。道理でステファン君のコメントが多かったわけだ…… その大物に私ってばなんて事を。おっちゃん、メープルリーフ持たせてすまん…いやこれは頼んだわけじゃないし、第1グループにドイツ勢はいなかったからいいとしよう。げっ、ステファン君がいる第3グループで滑るアンソニー・リウの講釈たれてる(元中国人で中国チャンピオンだったというだけだが)。ステファン君の一つ前の郭君で目の前で中国国旗振ってるし、しかも郭君の解説までしてもらっている(言っておくが頼んだわけではない!)。うわーごめんなさい!いやそれよりお偉いさんをおっちゃん呼ばわりはまずかろう。 それにしても知らないというのは無敵だ……。 1.5人分席を占領している彼、「僕の膝の上に座る?」と言うあたりはさすがにオヤジ(--#)。しかし断る(あたり前)と笑ってそれ以上は言わなかったのでまあよしとする。内心びびりながら席に座った私に一言。 「フランスペアとイタリアペアどっちが勝つと思う?」 やっぱこの人うんちくたれが入ったおっちゃんだわ。 アイスダンスフリーも第1グループに中国勢がいる。ぎりぎりフリーに進めたのね(^^;)。 反対側の隣にいるおばさんはウォームアップしている第1グループのスケーターに向かって「Wohhhhh, SKATE WE-----LL!!」と叫ぶいい人だ。友達がメディアにいるというイギリス人だが、私が中国国旗を振る日本人と知ってツボにはまるものがあったよう。「ジャッジは中国人と日本人にfussyなのよ。始めから表現力がないと決めつけているし、少しでもミスをしたら思いきりアーティスティックで点数を落とす気でいるんだから」といろいろ熱く語ってくれる。 中国ペアはピアソラのタンゴをフリーに持ってきた。いかにも「タンゴを踊っています」というポジションが多くて、フリーというよりはむしろオリジナルダンスのような印象。「こんなのアイスダンスじゃない!」と叫びそうな人がいそうだったリフトを連発、いかにもジャッジに嫌われそうな民族色を前面に出した去年から一転して「アイスダンスというもの」を一から勉強し直してきたんだろうかと勝手に想像している。女性のWeinaさんが綺麗になったし。去年からものすごくうまくなったと思うのだが、ジャッジは先に滑った2組より順位を下につけた。ひいき目があるのは承知だが、前の2組より確実にスピードがあったしそう劣っている部分はなかったと思うぞ!これは納得がいかない。ギャーギャー言っている私に「妥当だよ」とおっちゃん。一方おばちゃんは 「あーもうジャッジはfussyね!だからね中国人と日本人がアーティスティックで点を伸ばしたいなら他の国の選手の2倍アーティスティックのトレーニングをしなきゃいけないの。あなた選手に知り合いがいたら言っておいて!」 おばちゃんありがとう。残念ながら選手に知り合いはいないので、インターネットに書いておきます。 結局彼女達は去年の順位を下回る形になったが、数字に現れなくても見えたものがあるからいいのだ。(本人達はそうはいかないが)四大陸のアイスダンスフリーでは最終グループの演技を全てビデオに撮っていた中国アイスダンス勢、昔ゴルデーワ&グリンコフ組のビデオを教材にした雪ちゃん達みたいに資料にするのだろうか。今はそんな黎明期なのかもしれないが、力を入れればどのスポーツでも短期間で世界の上位に入ってくる中国勢。10年したらアイスダンスでも恐い存在になっていたりして(笑) イタリアの2番手Faiella and Milo組、一番始めのリフトで女性を持ち上げかけてやめてしまい、そこから演技を続けることができない。しばらく振付はせずに滑っていたが、そのうち男性が座り込んでしまった。オベルタス組のような転倒と違い、何が起こったのかわからない静かなアクシデント。しかし男性は動くことができずに顔をゆがめている。足がつったのだろうか?幸いこの時は担架を持った係員が足元を滑らせる事なく迅速に運んでいった。ニースの係員、学習能力はあるらしい。 まさかアイスダンスでまで事故が起こるとは…。確かにペア競技は「刃物を持った二人が密着している」競技なのだろう。 名前がコールされる前に先にリンクに降りてきて一人で滑っている都築さんに「Oh, princess comes again」とおばちゃん。まあなんてピッタリの表現を☆ その都築さん、新しい白の衣装が素敵。前の臙脂色も悪くはないけど「Time to Say Goodbye」なのだからこれくらい仰々しくしないと。また日本人では珍しくこういう衣装に負けないのだ。リナートさんも新しい黒の衣装が似合っているし(この人は濃い色の方が似合うと思う)、二人のバランスがバッチリ♪ ちょっと待て、フランスで「Time to Say Goodbye」!? 今まで気づかなかったけど、これかなりやばいんじゃないの!?と思っているうちに曲が始まり、案の定どよめき、続いて盛大な拍手。どう受け取ればいいのか複雑な気分。四大陸で初めてこのプログラムを見た時に「都築さん美しすぎるわあぁ!」とスタンディングオベーションしそうなのを自制したくらいによかったが、衣装も含めてさらにパワーアップしてきたような気がする。 しっとりした雰囲気の彼女にこの曲が合うのは簡単に想像がついたが、それだけでなく演技に入りこみ、ドラマチックなこの曲に負けないくらいにそれを表に押し出せる人なのだ。ヘルシンキで初めて見た時から今まで見た日本人スケーターにはない何かを感じていたのだが、このフリーでやっと形になった。そういえばコンパルソリーのタンゴからして他の人が淡々と滑っているように見える中で、ものすごい気合が感じられたっけ。 観客の受けもよかった。アニシナ組とは違う一つのプログラムとして価値を見出してくれていたらいいのだが…ま、無理だろうな。 いい点数が出た(最高4.9)!と思ったが会場はブーイングの嵐。横でおばちゃんは不満そう。おっちゃんは「Too much figure.」の言葉の後で 「男性いいね。ロシア人なんだね。」 リナートさん上手なんですね。すみません、目に入るように修行します(^^;) 都築さん達限定で日の丸持参しようかなあ… どうでもいい話なのだが、おっちゃんもさることながらこのおばちゃんも「友達がメディアにいる」だけの一般人ではなさそう。二人は顔なじみの様子だし、このおばちゃんは一組滑るごとに後ろの席の相棒に何かコメントしている。両端を解説者に挟まれたようなもので、疲れるがおいしい状態。またこの二人の見方がほぼ正反対なので二重においしい。 さあフランス勢の出番になった。2番手 Delobel and Schoenfelder組の名前がコールされると同時に観客が足を踏み鳴らしてうるさい。隣のおばちゃんに話しかけるのにも耳元で叫ばないと相手に聞こえないくらいだ。 この組は直前に滑ったカナダのDubreuil and Lauzon組と共にスケートカナダに出ている。スケートカナダではフランスペアが勝って表彰台に上がったが、今回はカナダペアが上位を守った。カナダの一番手だけに応援団も盛り上がるのだが、それより地元観客の「ええー!?」というようなざわめきの方が圧倒的に強い。おお、カナダ応援団に勝ったぞ(笑)!ブーイングが起こったわけではないし、たまにはカナダ応援団もアウェーの心細さを味わってみるのもいいのでは。 それにしても2番手でこの盛り上がりかよ〜 第4グループ。フリーでは24組が5グループに分けられるのだからこのグループは5組いるはずなのに、ウォームアップでは4組しかいない。ちょっと、どの組がいないの?探し出す前に「デンコワ and スタビスキー組が練習中のケガのため棄権します」のアナウンスが流れた。また!? この世界選手権絶対呪われてる……。頼むから明日の女子は何も起こらないでよ…。 今シーズンのNHK杯のアイスダンスは豪華メンバーだったことを今さらながら思い知らされる。なにしろ上位3組、アニシナ組、ロバチェワ組、ドロビアツコ組がそろって最終グループに入っているのだ。あ、チャイト組も最終グループだ。 最終グループのウォームアップ。第1滑走、現在2位のアニシナ組の名前がコールされると会場が、まあ何と表現したらいいのやら。周りの人間が立ちあがるか足をバタバタ踏み鳴らし、歓声をあげている。地鳴りというのはこういうものなんだろうか。ニースに来て以来この盛り上がりっぷりをなんとか写真に撮ろうと思っていたが、アメリカとカナダのツアーが隣り合わせになって占めている一角を除く全てがこの状態なのでどこをどう撮ったらいいのかわからない。 そして第2滑走、現在1位のフサポリ組の名前がコールされると一転してブーイング。おいおい!しかしフランスのお隣のイタリア、オリジナルダンスの時にはいなかった気合の入った応援団が来ているのかブーイングに混じって歓声がちゃんと聞こえる。一人あたりの気合では決して負けていないだろう。いいぞイタリアン!この分だと会場がイタリアなら逆の現象が起こるような気がする。仲良くケンカしていて「ブーイング?お互い様だろそんなもの」と笑いとばすようなノリを感じるのは私が傍観者だからか。 第3滑走のロバチェワ組も根強い人気、で、その次のドロビアツコ組。 何よこの静かさは。 もちろん拍手はあったのだ。リトアニアの国旗も2、3ヶ所貼ってある。しかし彼女達のために歓声をあげたり旗を振ったりするグループが見当たらなくて、私の7、8列くらい前にいるまりりん+かーさ+Rinaさんの3人だけだった。 ちょっとどういうこと? 頭に血が上ってはいたが(あんたアイスダンスはお気楽モードのはずだろうが)、最終滑走のチャイト組が紹介された時に大きなイスラエルの国旗を振っているグループがいるのはチェックしていた。 今シーズン「恐ろしい」と感じたプログラムが二つある。 一つはエルビスの「The Mummy」、もう一つがアニシナ&ペイザラの「カルミナ・ブラーナ」。NHK杯でこのプログラムを見た時には「これやられたら絶対他のペア勝たれへんで…」というお手上げ状態になった。 世界選手権は地元のフランス、最強のプログラムには最高の舞台だろう。初日のペアショートの盛り上がりからいってアイスダンスフリーではさらに盛り上がるのは明らか、見に行った人の特権でこの時の会場の様子は書きとめるぞ!と気合を入れていたつもりだが、この盛り上がりは本当にどう表現したらいいかわからない。というか書き表すのはもうあきらめた。 フランスではサッカーの試合で観客が盛り上がりすぎて臨時に組んでいたやぐらが壊れ、死傷者が出る事故があったこともあるらしい。2番手の時には隣のおばちゃんに「アニシナ組の時にこの会場壊れるんじゃない?」と冗談を言う余裕もあったが、自分の声も聞こえないこの騒ぎはしゃれにならない。競技が違ってもファンのノリは同じということか!?それは別にかまわないが、いくら男子が終わっていてもまだここでは死にたくないぞ私は!! それでまたただでさえ何かがやってくるような来るぞ来るぞと気をもたせる恐い曲なのに、演技がものすごくゆっくり見えるというか感じられるのだ。はっきり言って彼女達のダンスより観客の方がよっぽど恐い!頼むから早く終わってくれ!! あまり投げ物が飛ばないこの会場でもこの時は別。フラワーチルドレンが一回では花束を回収しきれない。終わった後疲れ果てたようだった二人、この観客の声援の中で滑るのは大変だったのだろう。お疲れ様でした。 来年のバンクーバーはエルビスの時にこの状態になるのか……。 「どう思う?」とおっちゃん。「(イタリアペアが)勝てないわけじゃないかも」と答えると満足そうにうなづく。私試験で及第点を出した生徒かいな。 (私は問答無用でアニシナ組が勝つと思っていたが、彼に言わせるとこの2組は僅差なのでリフトがぐらつく程度の小さなミスで勝敗が左右されるらしい) アニシナ組の点数が高かったこともあり、フサポリ組の演技の時には既に脱力状態だった。ああ、平和…。 先シーズンまでどうも色がわからなかったロバチェワ組。NHK杯で先シーズンのフリーを滑った彼らに安定感があるのと同時に小さ目の服を着せられているような窮屈さを感じ、それだけ力があるのだと認識したというのがなんとも皮肉な所。そして今回のフリーはさらに前、オリンピックシーズンで滑った「ジーザス・クライスト・スーパースター」。何というか…オリンピックで印象に残らなかったが面白いプログラムということが今回初めてわかったけれど、やっぱりもったいない……。 しかしジャッジには高く評価された。「ジャッジはここにメダルをあげるのね」と言うおばちゃん(彼女はドロビアツコ組のファン)。私もメダルはこれで決まったと思った。 さてドロビアツコ組の演技である。前の列でまりりん+かーさ+Rinaさんは座ったままリトアニアの大きな国旗を振っている。 私「まりりん、立つんだよ」 まりりん「え?」 私「いーから立つの!」 どなってごめん^^;アニシナ組の時に三色旗のシルクハットもどきの帽子をかぶってポンポンを持って応援する人がいるこの会場である。国旗を持って立つくらい可愛いもの、日本では顰蹙を買うリスクがあってもここなら大丈夫。というかそれくらいはやらないと。なぜ人を焚きつけているんだろうという気もするが、何かに対して無性に腹が立っている。 ここ2年間彼女達は連続してラリック杯とNHK杯に出場しており、共に3位に入っている。それだけの実力者、加えてNHK杯では拍手の大きさもさることながら彼女達の応援幕があったりとすっかりおなじみで人気もあるのに、最近の出場回数が同じ、いやファイナルもあったからむしろ日本より多く試合に出ていてはるかに騒がしいフランスでこの程度の反応というのにカチンと来たのだ。フランスのファンは何を見ているんだろうとか本田君がいるNHK杯でもプルシェンコに思いきり盛り上がる日本人は世界に誇れる上質のスケートファンに違いないとかいろいろ思ったのだが、これ以上書くと刺のある文章になるのでやめておく。 「Spente Le Stelle」の曲のイメージを変えてしまう情熱的な演技、メダルは決まったと思うのは早過ぎたよう。 なんとも鮮やかな逆転劇――― NHK杯アイスダンスフリーを見た直後のこと。 私「あのさー。チャイト組、グルシナ組より上でもよかったんちゃうかって思うの私だけかなあ?」 友人「思った思った。アニシナ&ペイザラにも負けてへんかったもん」 今となってはこの会話がかなり能天気なものに思える。(二人共アイスダンスは弱い^^;) とにかく滑り出しから唖然とさせられた。 何このスピード!? とにかくNHK杯の時と全くスピードが違うのだ。この時ほどNHK杯を生で見ておいてよかったと思ったことはない。その時の印象と比較することができるのだから。 今まで見てきた最終グループの組はどの組もNHK杯より調子が悪そうで、テレビと生の印象を比べるのは何だがフサポリ組もロシアカップの方が迫力があった。「友達が選手から聞いたんだけど、ここの氷はすごく悪いんだって。じゃなきゃ昨日の男子フリーでみんながあんなにミスをするわけないわよ」というおばちゃんの言葉もあるのでよほど滑りにくいリンクなのだろうと思っていただけに、チャイト組のこの演技には余計に驚いたのだ。 第一滑走でこの組見たかったなあ……。 地元選手の優勝。会場全体にフランス国歌が響くんだろうなあ…と思っていたら表彰式の準備をしている時点で既に一部の観客が何か歌っている。熱いぞやっぱり。 で、表彰台の上では3組が3組とも嬉しそう。普通2位と3位は明暗がいろいろな形で現われるが、ここまで全員そろって嬉しそうな表彰台は初めて見たかもしれない。これは写真撮影も何かありそうだな。 はい、ありました。 メダリスト勢ぞろいの撮影が終わった後で男性陣と女性陣に分かれて3ショットを撮りだす。 女性陣が「悩殺ポーズ」をしている後ろに男性陣が乱入しておちゃらけポーズをとる。 ペアの組換え現象が起こって入れ替わったペアで2ショット撮影、挙句のはてにはドロビアツコさんとマルガリオがそのまま観客にあいさつして手をつないで帰っていく(リンクから上がる時には元に戻ったが)。途中からもう爆笑し続け、おもしろすぎる!いくらなんでもカメラマンが全部リクエストしたわけではないだろう。こんなにはしゃぐ選手の姿がリンクの上で見られるとは思わなかった。 あーおもしろかった。ありがとう。
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