言葉はなくても頭はいっぱい


現地校に通い出して1〜2年間、時には2年以上学校で沈黙を通す子供も珍しくありません。沈黙に陥る多くの子供の内心は現地校に早く溶け込みたいというポジティブなものであるのに、先生や友達との接点を簡単に見出せないことからくる恐怖感や緊張感、馬鹿にされたり笑われたりするのではないかという不安感などが極端に強い場合、授業活動に参加しながらも沈黙を通すことがあるのです。実際に、現地校で沈黙を続けていた数人の日本人の子供達に学校ついて聞いてみたら、皆学校に対して好意的な見方をしていました。要するに、沈黙は必ずしも学校を避けたいというような拒否反応ではないのです。沈黙の間、子供は新しい環境をよく観察し、自分がどう振る舞うべきなのかを考え、言語の大切さを知り、リスニングスキルも発達します。頭の中は常に忙しく、子供にとっては適応過程であると共に大切な情報吸収期間でもあるのです。

その意味では、子供の沈黙期間が長い場合、安心して沈黙を破れるようになるまで温かく見守ってやることが必要なのですが、日本に比べて言語表現が常に求められるアメリカ社会では、沈黙というのは非常に誤解を招きやすい方法であることも見逃せません。時間を掛けて事態を飲み込みたいというある意味では前向きな自分の気持ちを直接言葉に表せないため、現地校生活での孤独感や疲労感からくる行動だけを見て、気分屋、引きこもり、無気力などと誤解されることがままあります。“何を考えているのかわからない。”“どこまで(英語を)学習しているのかわからない。”という苛立ちから、学習障害があるのではないかと早急に結論を出そうとする先生もいます。

沈黙という手段を用いて新しい環境に適応しようとする比較的内気な子供には、まず、学校側に子供の考えを理解してもらうためにも、作文や絵などでコミュニケートするように仕向けていく必要があります。英語であれ日本語であれ、家で、学校についての絵日記をつけさせたり、漫画や物語をつくらせたりするのもよいかと思います。空想の物語であっても、必ず子供の気持ちが反映されているはずですから、カンファレンスなどに招集された時に、サイコロジストなどに子供の作品を見てもらい、学校生活のどういう点が子供にとって特に不安感を強めているのかを考え、不安感を減らす対処をしてもらうようにしましょう。

次に、注意しておかなければならないのは、学習問題と間違えられてクラスをちょくちょく変更させられてしまったりすると、その度に子供が情報吸収作業をやり直さなければならなくなり、沈黙が反対に長引いてしまうかもしれないということです。様々な環境に子供をたらいまわしにして「この学校はどうか?」「このクラスはどうか?」と安心できる環境を探し続けるより、なるべく子供の置かれている環境を安定させ、子供が環境に少しでも馴染んで不安感を減らすようにした方が効果があると思います。 家庭側でも、学校生活で孤立しないようにグループ学習やバディシステムを学校側に提案したり、慣れてきた学校環境を保ち続けられように進級時に顔馴染みのクラスメートと同じ学級になれるようにリクエストしたり、日常生活の中でも学校環境とのつながりを維持できるようにクラスメートを家に呼んで遊ばせるようにしたりして、新しい環境における子供の安心感を高める工夫ができると思います。

最後に、おそらく簡単そうに見えて意外と難しいのが大人の忍耐力かもしれません。子供は短い人生経験の中で得た自分なりのやり方で新しい環境と新しい言語を理解しようと一生懸命なのですが、親も先生も含めた大人は、自分達の思うように子供が反応しないと異常であると感じたり、何も反応らしい反応がなく1年も2年も経ち学年だけが進んでいくことに不安を覚えてしまうのです。ある研究者は子供時代に外国に移り住むことを植物の移植にたとえて説明していましたが、実際に、新しい環境への適応状況は、自然な子供の身体的な成長とは違って、場所の特徴や子供の性格などあらゆる面の組み合わせによってまちまちであることを忘れがちです。子供は学校で沈黙をしつつも、新しいことを学び続けているのですから、特に緊張感・不安感のない家庭で、子供が何を学んでいるのかを確認し、学校にそれを伝えながら子供のサポートしていくことが鍵になるでしょう。

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06/02
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