親子のコミュニケーション講座〔5〕:
中身のあるコミュニケーション


バイリンガル環境で育つ子供達の親に対し、学校側から親の第一言語でしっかり子供とコミュニケーションをとるようにアドバイスをする理由の1つとして、親子のコミュニケーションの質という点があげられます。最近の研究において、幼児期の親子のコミュニケーションの質が後の子供の文字習得だけではなく小学校高学年から必要とされる読解力にも影響を与えているらしいということがわかってきました。文字を読めるというスキルだけが読解力を伸ばすのに十分ということではないのです。ですから、幼稚園時代にアルファベットや基本的な英単語を憶えさせたからと言って、その後の子供の現地校生活が安泰になるというわけではありません。理解する力というのはボキャブラリの豊富さやトピックにおける知識や経験の量によっても左右されるので、文章を読むテクニックを習得するだけでは限度があるのです。学校で基本的な読書テクニックを学ぶ3年生ぐらいまでは他の子供達と大して差がなくても、学習するために文章を読み始める4年生頃からそれまでに蓄積されてきた知識量によって読解力の差がはっきりと表れてきます。私が検査を担当した文字を読むのに苦労している学習障害を持った子供達の中でも幼児期から親子のコミュニケーションをしっかりとってきた子供達は、文字を読むのに他の子供達の数倍時間がかかったとしても、いったん読み終われば、文字を普通に読める子供達よりも読解力が優れており、その理解力が平均以上だというケースが今までにもいくつかありました。それでは、いったいコミュニケーションの質の差というのはどういうところで見られるのでしょうか?実はこれは学習時間の差ではなく、お母さんが料理していたり、子供に洋服を着せたりしているような何気ない日常の会話での差が大きいと見られています。試しに親子の一日の会話を記録して、自分の言っている言葉はきちんとした文章になっているか、決まった言葉ばかりを使っていないか、命令形や質問形だけではなくきちんとした会話が続いているかなど、チェックしてみるとよいかもしれません。そして、そういった基本的なチェックが終わったら、今度は次のような内容をチェックしてみて下さい。

  • 子供が見ているものや会話のトピックを子供の過去の経験と結びつけているか
    例:「そうだね、それはキリンさんだね。この前、動物園に行った時に見てきたよね。」

  • 子供が体験していることを感覚的・比較的な言葉で描写しているか
    例:「これは辛いでしょう。」

  • 子供が使っているものの特徴や機能を説明しているか
    例:「くぎを打ってごらん。まるい方を打つんだよ。」「(子供がティッシュを手にしている時に)これは鼻をかむ時に使うんだよ。」

  • 手本や見本を示しながら言葉の説明をしているか
    例:「(“転がす”という言葉を教える時)さいころはこうやって転がすんだよ。」

  • 感情表現とその感情が起こった理由を結び付けているか
    例:「○○君はママがいなくて寂しくて泣いてるんだよ。」

  • 原因や理由と結果を説明しているか
    例:「あんまり強く持つと折れちゃうよ。」

  • ものとカテゴリーを結び付けているか
    例:「お人形さんのおうちには家具があるね。ほら、テーブルと椅子があるでしょう。」

  • 複数の活動の関係を結びつけているか
    例:「お誕生会をするならケーキを買ってこなくちゃね。」

子供に対してこのような中身のある話しかけ方をするお母さんは、子供の言語成長レベルにあまり関係なく、子供が幼い時からずっとこのように話しかけ続けている傾向が見られ、そういったお母さんからのリッチな言葉のインプットの蓄積が子供の10歳時の理解力に差をつけていると言われています。アメリカに永住・移住のため、子供もずっとアメリカ社会で過ごしていかなければならない状況で、焦って子供の英語力だけを心配するあまり、親にとっては第2言語で日常生活を送る上で支障がない程度の英語だけで子供と接することにしたという家庭もあるかもしれません。しかし、そういった場合、上にあげたような子供にとって刺激になるような会話が英語でできているでしょうか?子供が英語で何かを言った時の対応としても英語で素早くサポートできているでしょうか?子供の語彙力をつけるために、同じ意味のことを表すのにいくつものボキャブラリのレパートリーがありますか?英語しか話せないアメリカ人家庭でも幼児期のコミュニケーションの質によって子供の言語的成長に差が見られるわけですから、親の第2言語を家庭での第1言語にするというのは、一般的には子供の学習成長にリスクがあるやり方だということをまず認識しておきましょう。また、今まで親子のコミュニケーションの質を意識されてこなかった方も、家庭での会話を見直して改善することによって子供の言語スキルがぐーんと伸びたという研究結果も出ていますので、ぜひ、この機会により中身のあるコミュニケーションのやり方を実行してみて下さい。


【おすすめ図書】

親子で育てる「じぶん表現力」
著者:JAMネットワーク
出版社:主婦の友社
ISBN:4-07-234850-3
定価:本体1300円

具体的に家庭でどういった言語・会話活動をしたらよいのか大変参考になる本を見つけましたのでご紹介したいと思います。この本はアメリカで子供達を現地校に通わせた経験のあるメンバーがその経験をもとにどうやったら子供達の言語表現力を伸ばすことができるのかを考え、わかりやすく実用的にまとめたものであり、親子のコミュニケーションの質を考える点もしっかりおさえてあります。度胸力、論理力、理解力、応答力、語彙力、説得力、プレゼン力の7セクションからなり、すぐに応用できる実行例が満載されています。特に皆さんにおすすめしたい理由は、子供が現地校経験者という方達からの視点で書かれているため、現地校での生活に必要なスキルが強調されており、アメリカ在住者・現地校で生活する子供達にとって非常に有用性が高い点です。2002年、全190ページ。(『親子で育てる「じぶん表現力」ワークブック』も本体1300円で出版されているようですが、私はこちらは読んだことがありません。)

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08/06
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