災害時の子供への対応

リンク

学校教育相談室ホームページ
このページのワードファイル(ダウンロード)

自然災害における子供への対応
National Association of School Psychologists (NASP)資料より


[全ての子供に対して]

影響を受けやすい子供を見つけること

個人の置かれている状況によって影響を受ける度合いは大きく異なります。最も影響を受けやすい子供には次のような特徴があるので注意してみて下さい。
◎ 災害の被災者(負傷・死亡・行方不明)が家族にいる
◎ 被災地域から来ている、もしくは、被災地域に家族が住んでいる
◎ 宗教や文化的アイデンティティ等、被災国と精神的強いつながりがある
◎ 被災の可能性のある地域で他の自然災害を経験したことがある
◎ 親など自分に近い人を最近亡くしてから間もない
◎ 外傷性ストレス障害(PTSD)、うつ傾向、その他の精神的な障害を持っている

子供や生徒に話しかけること

◎ 家庭やクラスで、災害関連の客観的事実について話す時間を作って下さい。例えば、地図や地球儀などを使って、地震学、地理、文化的問題、非常・緊急時のサービスやメンタルヘルス・健康管理のサービスについてなど、災害と関連のある情報を与えるようにするとよいでしょう。
◎ 子供が自由に感情や不安感を表出できる場をつくり、質問をしやすい雰囲気を確保して下さい。直接被災者を知らない子供でも、喪失感、悲しみ、危機感を持つこともあり、前触れもなく自分もそのような大きな災害に遭遇すると危惧しているかもしれません。子供の感情を受け入れ、それがごく普通であるという姿勢をとるように心がけて下さい。相手のことを思いやりながら話を聞いてくれる人の存在が重要になります。そして、子供に、他の子供達も皆同じようなことを言っている、同じような反応を示しているということを知らせてあげて下さい。

よい聞き手になりよい観察者になること

子供がどれだけ不安に感じているのか、子供にどれぐらいの情報が必要なのかというのは、子供の導きに沿うようにして下さい。もし災害の悲劇的な面に子供の注意が向いていなければ、それにこだわる必要はありません。ただ、子供の質問に出来る限り答えられるように聞き手側が準備をしておく必要はあります。幼い子供は言葉で表現しないかもしれません。行動や社会的なやりとりの変化に注意してみて下さい。学齢期の子供達は自分の考えや感情を言葉で表現できますが、自分から会話を始めようとしなかったり、話をするきっかけを自分から作らないかもしれないので、その場合はこちらから話を始めるきっかけを作ってあげる必要があるでしょう。

人々の思いやりや人間性に目を向けること

大きなスケールの災害が起こると、世界中から多くの人からの思いやりや支援が集まります。政府や非営利の支援団体、そして、個人の寄付などに目を向けて下さい。最も被害を受けた地域がどのようにして大きなスケールの支援を受けるのか、各国・各団体のリーダーがどのように協力しあうのか話し合ってもよいでしょう。

サポートを必要としている人を助けるような何かポジティブな活動を子供とすること

子供は、行動を起こすことによって、自分の人生を自分でコントロールしていると感じることができ、他人とのつながりをより強く感じられるようになります。国際的な被災者支援の機関に個人的に寄付をしたり、学校やコミュニティの募金活動に参加したり、コミュニティ内でサポートを必要としている家族の支援活動に参加すること等が考えられます。

人間の回復力を強調すること

人間には悲劇的な事件を乗り越えて生活を続けていく力があることを子供が理解できるように話してあげて下さい。子供自身の日常生活上での能力や困難な時に発揮される力に焦点をあてましょう。年齢相応のレベルで、以前コミュニティや国が別の災害から立ち直った例を探しましょう。

正直に話すこと

子供の前で災害の事件における自分の感情を認めて下さい。子供の年齢・理解力相応の表現をする必要はありますが、大人が正直な気持ちを共有することで、どんなに小さな子供でもより安心感を持ち、あなたに対してより親近感を持ちます。特にティーンエイジャーぐらいの子供の前で、あなたが悲しんでいること、自分で何も出来ないことにやるせなさを感じていること、自然の怖さにただただ畏怖していることなどを語ったり見せたりすることは問題ありません。ただ、自分の不安感と家庭での非常時の準備や対応方法の話題のバランスをとるように心がけて下さい。

情報量に注意すること

正しい情報を得ることは大切なことですが、際限のないニュースにたださらされ続けることは助けにはなりません。災害の様子や怪我・飢餓・病気に苦しむ被災者の様子を映した映像を見続けることで感情的に打ちのめされてしまうこともあります。特に幼い子供はテレビの画像と自分の生活との区別を上手くつけられません。ティーンエイジャーなど大きな子供はニュースを選んで見ることもできますが、子供がテレビで見たことについて客観的に見て話し合えるようにして下さい。ニュースを見ないで音楽を聴いたりビデオを見ることを選ぶ子供もいるかもしれませんが、それはそれで構いません。

家族の時間を持つこと

困難な時や悲しい時には家族と一緒に過ごすことが大切です。災害による悲劇に子供がさほど影響を受けていなくても、家庭生活を見直すのにとてもよい機会になります。子供と一緒に何かをすることで、子供の安定感と家族としてのつながりが強まります。


[特に影響を受けている子供に対して(特に学校のスタッフ)]

深い苦悩・悲嘆・不安感・ストレスを認知すること

家族など自分と近い人を亡くして悲嘆していたり、家族の怪我などで強い不安感を持っていたり、被災地の家族を心配している子供がいるかもしれません。時には、サポートが必要な親戚を支援するために家族が国外に出ていたり、被災して親を亡くした家族・親戚の子供を迎えに行ったりということもあるかもしれません。このようなレベルの精神的苦痛は日常生活に大きな支障をもたらし、授業中に集中できなかったり、成績が下がったり、行動に変化が見られたり、学校を休みがちになったりといった形で表れるかもしれません。問題解決にも長い時間を要します。教師はどういったサポートや便宜が生徒に必要なのかを考え、親・保護者と協力して子供の学校の勉強の遅れが大きくなり過ぎないようにプランを立てる必要があります。

生徒が気持ちを吐露できる機会を作ること

気持ちを吐露できる機会として、学級全体での話し合いや活動に参加させるということも考えられますが、それが必ずしも全員に効果のあるよい機会としてあてはまるとは限りません。少人数のグループや個人でスクールサイコロジストやカウンセラーと話せる機会も設ける必要があります。

できるだけ流れを止めずに普段の活動を続けること

生徒に自分の災害に対する反応を消化させる機会を作ることは大事ですが、普段の感覚を維持することも大切です。通常の授業、放課後の活動、友達との交流は生徒の安心感を深め、日常機能を促します。

行動を起こさせること

災害で直接影響を受けた子供は、直接影響を受けなかった子供よりも、家族や被災した地域に対して何かしたいという気にかられるかもしれません。学校やクラスメートと何人かで募金活動を計画したり、被災地域のニーズについて情報をクラスメートに提供したり、学校の新聞に記事を投稿したりすることもできるでしょう。何かポジティブなことを始めたり、クラスメートが手伝いたがっていることを知ることで、希望や親近感・一体感が強まります。

危機・死に関する文化的な価値観や範囲を考慮すること

多くの移民の家族は、信仰心・価値観で結ばれたネットワークの固いコミュニティの一員であったりします。生徒がどんな支援システムへのアクセスがあるのか、学校や大きなコミュニティからのサポートとしてはどんな形が好まれるのか知る必要があります。学校は孤立した生徒や家庭同士のつながりを作ったり、文化的にふさわしいサポートシステムとのつながりを作る役割を果たすことができます。

メンタルヘルスのサービスを提供できるようにすること

鬱、不安感、ストレスなどは危機的状況ではごく普通に起こりうることです。多くの生徒は家庭やコミュニティのサポートで十分かもしれませんが、もっと特定の精神面でのサポートが必要になる生徒も出てくるでしょう。多くの移民家庭においては、学校だけがメンタルヘルスのサービスを受けられる場所になっています。スクールサイコロジストは必要なカウンセリングを提供したり手配できます。必要であれば、地域のメンタルヘルスのリソースやサービスなどを探したり紹介してくれます。教師は精神的・感情的に困難に陥っている生徒をスクールサイコロジストやカウンセラーに差し向けるべきで、自分でカウンセリングをしようとすべきではありません。サービスは文化的に相応したものでなければなりません。

死について話し合おうとすること

特に多くの子供が災害で亡くなっている場合、死ぬこと、家族など自分と近い人が死ぬことについて大きな不安感を持つかもしれません。そういった子供とは死について話すことが大切です。死や悲嘆について書いてある本、ホスピスなどの組織、宗教を信仰していれば教会といった外部のリソースが役に立つでしょう。家族が回復・復興に強い価値観を持っていれば、死に関する対応への強力なサポートになるでしょう。

悲しみのプロセスを理解すること

悲しむというのは過程であって事件ではありません。人にはそれぞれ異なる悲しみ方があり、同じ年齢の子供でも死に対する理解力や感じ方に違いがあります。子供の死に対する見方は各個人の世界観や経験によって形作られます。深い悲しみの表現としては、感情的なショック、悲嘆、引きこもり、行動の幼児化、怒りや怒りの行動化、不信・拒否などが見られます。幼い子供には芝居、美術・クラフトといった方法で感情表現をさせたり、小学校高学年以上の子供には美術、劇、音楽、作文などを通して感情表現できる機会を作って下さい。

トラウマにおける子供の反応を知っておくこと

多くの子供は親やその子供をよく知っている大人のサポートで今起こっている事件への不安感に対応できます。しかし、個人的に置かれている状況が理由で、もっと極端な反応を起こす子供もいます。症状は年齢によって異なります。子供の行動が極端に変化したり、次にあげる症状が長期間続いている場合は、専門家に連絡を取って下さい。
◎ 幼児:指をしゃぶる、寝小便をする、親から離れない、睡眠の困難、食欲不振、暗いところを怖がる、行動の乳幼児化、友達や日常生活から引きこもる
◎ 小学生:苛立ち、攻撃性の増加、他人への依存、悪夢、登校拒否、集中力低下、各種活動や友達から引きこもる
◎ 小学生以上:睡眠や摂食の障害、動揺・不安感、他人の意見との衝突の増加、体調への不満、非行・非社会的行為、集中力低下

友達へのサポートを育むこと

死や悲嘆の経験がほとんどない子供は、災害で家族を亡くした友達の反応を見て、怖がったり慌てたりするかもしれません。大人の導きによって、幼い子供には死という概念を理解させ、なぜ友達が悲しんでいるのかを理解させる必要があります。どんな年齢の子供でも、どのようにしてお悔やみや慰めの言葉を伝えたらよいのかを決めるのに大人の助けが必要になります。どんなことを言ったらよいのかを話し合い、思いやりを意味するシンプルな表現やサポートの申し出だけで十分だということを教えて安心させてあげて下さい。友達の行動が多少変わるかもしれないことも言っておくとよいでしょう。大切なのは、悲しんでいる友達がいつもと違う行動をとったり、友達との交流をしばらく避けたり、怒っていたり、とても悲しんでいるように見えても、それが友達関係を終わらせるようなことではないということを理解させることです。映画を見に行ったり、スポーツをしたり、いつも一緒にやっていることに友達を誘うようにすすめてみて下さい。その友達にとって、よい気分転換になったり、普段の感覚を取り戻す助けになるかもしれません。

友達のことを心配している子供にはそれを大人と話すようにさせること

大人と話すことでその子供の不安感や友達を楽にさせてあげなければという責任感をある程度軽くすることができます。また、その友達が極端な反応に陥りそうな場合に、友達を助けるのに重要な情報となります。自分自身が過去に家族を亡くしたことのある子供は、悲嘆している友達を見て、自分自身の悲嘆の記憶が戻ってしまうこともあり、その場合、より大きなストレス反応になる可能性も大きく、普通以上の精神的なサポートが必要になります。


もし何かありましたら、ご遠慮なくEメールでお知らせ下さい。

ピアッツァなつき(全米認可スクールサイコロジスト)

updated: 3/18/2011