輸液には体液のバランスを維持するための維持輸液と、薬物や代謝産物の排泄を促進させ、臓器の障害を防ぐために行う大量輸液があります。体内に腫瘍細胞が大量に存在する治療初期は、慎重な輸液管理が必要です。とくに、抗がん剤を大量投与するときには尿酸による腎臓障害を予防したり、出血性膀胱炎を予防するために大量の輸液をします。
小児白血病や悪性リンパ腫の治療では、抗がん剤の投与、大量輸液や輸血のために血管の確保が必要です。手足の静脈はルートを維持するために固定しなくてはなりません。細い血管では血管炎をおこしやすく、同じ場所を長く使用できませんので頻繁に刺しかえる必要があります。おそらく患児の日常治療で最も苦痛なのはこの繰り返し行われる採血や血管の確保であろうと思います。
実際は標準危険群で入院治療期間の比較的短い患児では手足の血管を場所を変えて使用することによって治療を継続することも可能です。しかし高危険群で入院治療期間の長い患児では、だんだん手足の静脈の穿刺が困難になってしまうことをよく経験します。個人差はありますが、そういう手足からの血管確保が困難になる状況では治療継続のため長期に使用可能な中心静脈カテーテルの使用を検討することになります。病院によっては最初から中心静脈カテーテルを挿入して治療を行っているところもあります。患児にとって一番負担の少ない方法を選ぶのが一番だと思いますので主治医とよく相談して下さい。
また最近では制吐剤の進歩に伴いかなり少なくなってきましたが抗がん剤投与や放射線治療に伴い、吐き気、嘔吐、口内炎あるいは胃腸障害がおこり、食事がとれない場合もあります。このような状態が長く続く場合は、体力の維持に必要な栄養を輸液によって入れることができます。しかし高カロリーを維持するためには
、濃度の濃い液を輸液しなくてはならないため血流量の多い心臓近くの大血管に中心静脈カテーテルを入れる必要があります。
治療中には種々の目的で輸血が行われます。今日、輸血なしには白血病や悪性リンパ腫の治療は考えられなくなっています。以前は輸血のドナー(供血者)を探すことが、患児の家族の大きな負担になっていました。しかし、善意の献血者と日本赤十字社の努力によって、必要な血液製剤のほとんどがスムーズに供給されるようになり、患児の家族に輸血ドナーを集めていただくことは少なくなりました。
輪血はつぎのような目的で使われています。
a.血小板輸血:血小板数の減少にともなう出血の治療、または予防のために使います。血小板数が1〜3万/μl以下で出血症状を認める場合あるいはその危険がある場合に適応されます。発熱がある場合や全身状態によっては血小板数が3万/μl以上であっても輸血が必要になることがあります。
b.新鮮凍結血漿輸血:L-アスパラギナーゼ投与にともなう凝固因子の低下に対して、または多種類の凝固因子の欠乏が認められる場合に、出血予防のために投与します。
c.濃厚赤血球輸血:貧血にともなって低下した酸素運搬能を改善するために使います。貧血が進むと、抗がん剤の心臓や腎臓に対する副作用が強くでるため、ヘモグロビン濃度7〜8g/dl以上を保つように輪血します。感染症や全身状態が思わしくないときはヘモグロビン濃度10g/dl以上を保つように輸血することもあります。
d.顆粒球輸血:重症細菌感染症の治療を目的として使用する場合もありますが、期待されるほどには効果がなく、副作用があらわれる可能性も高いため、現在はほとんど使用されていません
いろいろな場合に輸血は必要とされますが、輸血にも色々な副作用があります。主な輸血の副作用とその予防法を次に示します。
a.感染症−肝炎ウイルス(B型、C型、その他)、サイトメガロウイルス、EBウイルス、エイズをひきおこすHIVウイルス、成人T細胞性白血病ウイルス、パルボウイルスなどが血液によって感染することがあります。これらに関しては前もって献血ドナーのウイルス検査によりスクリーニングが行われています。
b.輸血後移植片対宿主病(GVHD)−輪血されたドナーのリンパ球が患児(ホスト)の組織を攻撃する疾患で、きわめてまれですがいったん起こると死亡率の非常に高い副作用です。対策としては血縁ドナーを避けること、白血球除去フィルターを使用すること、血液製剤に対する放射線照射をすることです。
c.感作(抗白血球抗体の産生)−輸血血液中のホストと異なった血液型に対する抗体を産生して、輸血効果を低下させたり、発熱、悪寒などの輸血副作用をひきおこします。血小板輸血無効例の主な原因は抗HLA抗体による血小板の消費のためです。対策としてはドナーの数をできるだけ減らす(成分輸血)こと、白血球除去フィルターを使用することです。