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女の一生

 久しぶりに徹底的に疲れる小説を読んだ。フランスリアリズムの傑作『女の一生』(新潮文庫)は、1883年に刊行された作品である。この作品は、思春期を修道院で過ごした貴族の娘ジャンヌの一生を描いたものである。未来に対する期待を抱いて修道院を出たジャンヌは、子爵のジュリアンと結婚する。しかし、結婚後の現実は、ジャンヌの期待とは大きくかけ離れたものであった。夫には裏切られ、そして自らの愛を一身に注ぎ込んだ息子にも裏切られてしまう。この作品は、「ジャンヌの一生」を通して男の「生」をうまく描き出し、それによって人間存在にリアリスティックに迫っている。

 モーパッサンの『女の一生』が今の時代にあっても輝きを失わないことは、人間の本質を描いているからに違いない。最近、酒井あゆみの『東京夜の駆け込み寺』(幻灯舎アウトロー文庫)を読んだ。こちらの作品は、18歳で風俗の世界に入り、ファッションヘルス、AV女優、ホテトル、性感マッサージ、契約愛人業などを経験した作者によるものである。酒井は自らの経験に加え、風俗の世界で生きる女性の姿を描いている。
 ここで注目すべきは、『東京夜の駆け込み寺』に登場する男性である。風俗の世界に入った女性の中には、付き合っていた男性に送り込まれたり、あるいは男性によってそのきっかけを作られてしまうケースが多い。『性』をめぐる男女関係を通して、徹底的にわがままな男の姿を見ることができるのである。

 男性と女性。そして、生と性。人間関係において、信頼とはいったいどこにあるのだろうか。『女の一生』の後半では、ジャンヌは女中ロザリの助力によって、なんとか普通の生活を取り戻していく。また、『東京夜の駆け込み寺』では、風俗の世界で出会った友達関係の絆が、深く印象に残った。女性同士のつながりにおいて、信頼というものの存在を見て取ることによって、女性読者はかろうじて安心感を得ているのであろう。一方、男性読者は素直に安心感を得ることができるだろうか。

 この2作品は、ぜひ男性に読んでもらいたいものである。